大阪高等裁判所 平成3年(ラ)152号 決定 1992年2月20日
平成三年(ラ)第一五二号事件抗告人
平成三年(ラ)第一六七号事件相手方
(以下、単に「抗告人」という。)
I1
平成三年(ラ)第一五二号事件抗告人
平成三年(ラ)第一六七号事件相手方
(以下、単に「抗告人」という。)
I2
上記抗告人両名代理人弁護士
山西健司
平成三年(ラ)第一六七号事件抗告人
(以下、単に「抗告人」という。)
T1
平成三年(ラ)第一六七号事件抗告人
(以下、単に「抗告人」という。)
T2
上記抗告人両名代理人弁護士
喜治栄一郎
平成三年(ラ)第一五二号事件相手方
平成三年(ラ)第一六七号事件相手方
(以下、単に「相手方」という。)
F
上記相手方代理人弁護士
山之内明美
主文
1 原審判中、抗告人I1、同I2、同T2に、相手方Fに対する各金員の支払を命じた部分を取り消す。
相手方Fの本件財産分与の申立を却下する。
2 抗告人T1の本件抗告を棄却する。
3 本件手続費用中、鑑定人小野三郎に支払った鑑定費用二〇万円は、相手方F及び抗告人T1らの負担とし、その余の手続費用は各自の負担とする。
理由
第一当事者の申立
一平成三年(ラ)第一五二号事件につき、抗告人I1及び同I2の申し立てた抗告の趣旨
1 原審判中、抗告人I1、同I2に、相手方Fに対する各金員の支払を命じた部分を取り消す。
2 相手方Fの本件財産分与の申立を却下する。
3 手続費用は相手方Fの負担とする。
二平成三年(ラ)第一六七号事件に関する抗告人T1及び同T2の抗告の趣旨
1 原審判を取り消す。
2 本件を大阪家庭裁判所に差し戻す。
第二抗告の理由
一平成三年(ラ)第一五二号事件に関する抗告人I1及び同I2の抗告の理由の要旨
1 相手方FとUとの同棲生活を含む関係は、内縁関係には達しない単なる私通関係にとどまり、準婚として保護されるべき性質のものではない。
2 仮に、相手方FとUとの関係が準婚としての保護を受けるに足りる内縁関係にあったとしても、内縁の夫が死亡したことによるその解消につき、婚姻の生前解消である離婚の場合と同様に財産分与を認め、しかも、その支払義務を夫の遺産及び相続人が負担するものとすると、結果として、死亡した配偶者の相続人から、本来相続人が取得できる遺産の金額を減少させ、その分を内縁の生存配偶者が取得することになり、事実上、内縁の生存配偶者に相続を認めたのと同じ結果になる。さらに、原審判は、財産分与における生存配偶者の扶養の機能をいうが、内縁関係にあった生存配偶者に対し、死亡した内縁配偶者の相続人が、扶養義務まで負担させられるというのであれば、相続ばかりではなく、扶養についても、法体系を破壊することになる。
こんなことが、家庭裁判所の審判官の裁量に委ねられていいはずはない。
3 原審判は、平成三年三月二五日に、大阪家庭裁判所家事第一部家事審判官駒井雅之により言い渡されたことになっているが、審判書謄本が作成されたのは、その一ヶ月後の平成三年四月二二日であって、著しく不公正であり、また、右審判書謄本が送達された平成三年四月二四日には、そのうちの一枚が欠落していて、抗告人ら代理人弁護士山西健司は、その後、同年五月二二日に至って、担当書記官から右欠落部分を取りにきてほしいとの連絡を受けて、上記欠落部分のあることを初めて知り、取りに行った経緯がある。
二平成三年(ラ)第一六七号事件に関する抗告人T1及びT2の抗告理由の要旨
原審判は、相手方FとUとは、準婚として保護されるべき内縁関係にあることを認め、抗告人T1とUとは未だ内縁関係にあるということができないと認定しているが、両者の間には取り立てていうほどの差異がなく、原審判の認定は誤っている。
第三当裁判所の判断
一Uとその妻Kとの結婚生活、抗告人T1、相手方Fとの関係、並びに、その死亡に到るまでの経緯についての事実の認定は、原審判二枚目裏六行目から七枚目裏四行目までに記載のとおり(但し、原審判三枚目裏五行目の「申立人○ 」とあるのを「申立人○○」と、同一〇行目の「家に出る」とあるのを「家を出る」と、同六枚目表五行目の「申立人○ 」とあるのを「申立人○○」と、同一三行目の「被相続人に入院中」とあるのを「被相続人の入院中」と各改める。)であるから、これを引用する。
二内縁関係にある男女の生存中における内縁解消の場合については、法律上の婚姻をしている夫婦の離婚の際の財産分与の規定の準用により、配偶者の一方から他方への財産の移転を命ずることができると解するのが準婚関係にある当事者双方の実質的公平をはかり、経済的弱者である当事者の一方の離婚後の扶養をも一定期間につき考慮する制度的保障を容認するものとして相当である。
しかしながら、わが現行法は、内縁関係を含む婚姻中の夫婦の財産については、離婚による婚姻解消の場合には、財産分与制度によって清算し、また、一方の死亡による婚姻解消の場合には、相続制度によって取得させることにしているのであって、婚姻の届けをした夫婦の一方が死亡した場合には、財産分与の規定の適用はなく、また、内縁の夫婦の一方が死亡した場合には、相続の規定の適用はないと解すべきところ、内縁の夫の死亡により内縁関係が解消されたときにも、財産分与の制度を準用して、内縁の夫の遺産に対する内縁の妻の財産分与を認めることは、右のような離婚法並びに相続法につき、現行法の体系を崩すものというべきである。したがって、内縁関係にある男女の一方が死亡したことによって、内縁関係が解消された場合にまで、離婚に伴う財産分与の制度を拡張して、その準用をするのは相当ではないと解すべきである。
三本件において、相手方F及び抗告人T1は、いずれも、被相続人Uと内縁関係にあったとし、被相続人Uの死亡による内縁関係解消を理由として、被相続人Uの財産の分与を請求するものであるところ、このような場合には、財産分与の請求は認められないと解すべきであるから、本件財産分与の申立は、その余の点について判断をするまでもなく、これを却下すべきものである。
のみならず、相手方Fが仮にUと内縁関係にあったとしても、前記認定の事実からすれば、その内縁であった期間は短期間であり、かつ、本件記録によれば、原審判添付別紙遺産目録に記載の財産は、Uが相手方Fと協力して取得したものではなく、Uが単独ないしその前妻のKと協力して取得したものであり、また、相手方Fは、Uが死亡した後に、同人の遺産から、実質的に五〇〇万円を取得していることが認められるから、相手方Fには、もはやUの財産の分与を求める権利はないというべきである。
また、抗告人T1がUと内縁関係になかったことは、原審判八枚目表三行目から同裏二行目までに記載のとおりである。
四したがって、相手方Fの財産分与の申立を認容した原審判部分は、不当であるから、右部分を取消のうえ相手方Fの本件財産分与の申立を却下し、また、抗告人T1の本件財産分与の申立を却下した原審判部分は相当であって、同抗告人の本件抗告は、理由がないのでこれを棄却することとし、手続費用は、主文3項に記載のとおり負担させることとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官後藤勇 裁判官東條敬 裁判官小原卓雄)